吉川 靖・「随想」

1.2006年6月 高島野十郎展 

  「高島野十郎(たかしま・やじゅうろう)」(1890−1975)九州・福岡生まれ
 
 生涯画壇とは無縁に絵を描きつづけた、いわば独学、無名の画家であったという。私もはじめて聞く名前でした。
 今回没後30年の記念展(6月10日〜7月17日)を三鷹市美術ギャラリーで観ました。
 その作品(油彩)は初期から晩年にいたるまで一貫して「執念」を塗りこめたような気迫のこもったものでした。マチエールが堅牢でとくに後年のものは
優雅で日本画のようです。油彩写実という外来画法を一生かかって追求し、独自の日本的油彩画を造りあげた人がここにもいた・・・。新たな発見でした。

 30代くらいまでの作品はゴッホ的なうねる形や暗さで怨念を感じさせるような画風です。40歳前後の渡欧時の作品の印象は、明るい陽光下にもかか
わらずスカッとしない。どこか陰鬱です。壮年以降日本画的な典雅な感じが加わり、絵肌の堅牢さやデッサンの確かさとあいまって見ごたえがある独自な
油彩画になる。暗闇の蝋燭は単純な構図の小品です。これを何枚も繰り返し描いている。また夜空に輝く満月。これも非常に簡潔な構図。同じようなもの
を執拗に繰り返し描いていいる。

  若いころから絵は描いていたようだが、絵一筋で生活できたのはなぜか。独学というがどのように勉強したのか。時代の流れに背をむけ写実に徹した
のはなぜか。この執念はどこからくるのか。いろいろ疑問がわきます。いずれにしても非常にユニークな人のようです。
  観た後の感想・・・。この執念、集中はすごい。振り返って「お前は何をやっているのか」。                      以上

       参考図版 
             (高島野十郎展カタログより)
                
          「蝋燭」 油彩 (22.8x15.8cm) 昭和9年頃            「満月」 油彩 (60.6x50.0cm) 昭和38年頃
  
        
             「菜の花」 油彩 (53.0x72.5cm) 昭和40年頃
                                                       

  

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