吉川 靖・「随想」

8.2008年4月 イラク空自は違憲 

  新聞社によって主張が異なるのは常識ではあるが、特定の新聞ばかりを読み続けると知らずのうちに洗脳される危険性もある。かといって複数購読
 する経済的余裕もない。せいぜいインターネットで社説等の読みくらべをする程度しかできない。朝日は左、読売と産経は右、毎日は中庸といった漠然
 とした印象があるが、最近「イラクでの航空自衛隊の輸送活動違憲という名古屋高裁の判断」に対する各社の反応を比較し、その違いを再認識した。

1)名古屋高裁の違憲判断
  4月17日(青山邦夫裁判長)の判断は空自の活動差し止めを求めた原告の請求を棄却したが、傍論で違憲判断を示した。その要点は空自活動の
 バクダッド空港がその根拠法であるイラク特措法の「非戦闘地域」かどうかについては「戦闘地域に当たる」とし、さらに空自が行っている多国籍軍の
 武装兵士の輸送は武力行使と一体化するもので憲法9条に違反するというもの。
 
2)朝日新聞
  (1)バクダッドは米軍と武装勢力との武力衝突が起きており空港も含め戦闘地域に当たるという判断を支持している。そして空港で自衛隊が何度も
    危険回避行動をとっていること、米軍機が被弾したことがあることなどを指摘、その正当性を補足している。
  (2)多国籍軍の武装兵士の輸送は他国による武力行使と一体化しているとし、これも裁判所の判断を支持している。
   この判決を受けて与野党は空自撤収にむけて議論を開始すべきだとしている。
 
3)読売新聞
  (1)バクダッド空港は治安が保たれており戦闘地域には当たらない、とし朝日のいう危険性には触れていない。また多国籍軍による武装勢力の
    掃討活動は国連とイラク政府が支持しているから正当な「治安維持活動」だとする。同じ殺し合いでも国連等が認めれば「戦闘」ではないと
    いうようだ。
  (2)多国籍軍の武装兵士の輸送は内閣法制局の「一体化」基準に当てはまらず一体化していない、という。つまり政府がよしとしているから「OK]
    だという。
     さらに裁判所が「傍論」で違憲判断を表明したことに疑義をとなえている。

4)産経新聞
  (1)バクダッドは特措法の「非戦闘地域」の要件を満たしていると政府が主張しており問題ない、という。読売と同じ論理だ。
  (2)空自の活動は国連安保理決議を踏まえたもので問題ない。国際平和活動を違憲というのはおかしい。憲法9条が禁止している武力行使は主と
    して侵略戦争を対象にしたものと解釈するのか適当だ、という。読売と似ているが同じ戦闘でも国連のお墨付きがあり侵略でないから9条に触れ
    ないという論理だ。民主党の小澤氏も国連が認めればなんでもOKというようなことを言っていたような気がする。

5)毎日新聞
   裁判所の判断に疑義をとなえることなく政府に対し判決を重く受け止め、合法というならその根拠を国民にていねいに説明せよとしている。輸送対象
  を武装兵員と認定したことにも注目している。

  このような具合で各紙のスタンスは「やはり」という印象である。ただ読売の場合22日になって社説と若干異なる記者(勝股編集委員)の署名記事を
 掲載している。その内容は「戦闘地域」と「武力一体化」について違法性を疑われる余地があり政府の説明や解釈があいまいであった。早急に自衛隊
 派遣の恒久法を検討すべきだとしている。他紙の論調を意識してバランスをとったのか、「読売は幅がある」ところ示そうとしたのか。この中で記者は
  ・空自は06年夏から米軍はじめ多国籍軍兵士の輸送をはじめたこと
  ・活動場所にバクダッド空港が加わり、そこでは迫撃砲弾が撃ち込まれ輸送機の警報装置が頻繁に作動し07年夏には危険情報で月10回も飛行を
   中止したこと
   などの事実が述べられている。

  個人的には裁判所の判断は妥当で常識的なものだと思う。少なくとも一般の国民にとって普通に考えれば「戦闘地域」であり「武力行使と一体化」し
 ているのは明らかだ。イラクでの活動は当初「人道復興支援」としていたが、サマワから撤退した後の空自の輸送活動はその内容が変質してきたようで
 特措法や憲法に抵触するようになってきたということではないか。米国への気兼ねから政府はそこをきちっとせず、また国民にも説明しないで口をつぐん
 でいるようだ。安全保障の首根っこを米国に押えられ毅然とした態度をとれない「属国」の悲しさと卑屈さを感じる。

  イラクでの活動を国際貢献というが、そもそもこの戦争とは何だったのか。9.11後アフガンの次はイラク攻撃ということが言われ疑問を感じたことを
 思い出す。結局米国のミスリードによる誤った戦争であり、無用な混乱がつくり出されたという評価は国際世論としても定着しつつあると思う。それに
 加担することや後始末を真に国際貢献といえるだろうか。当時の状況ではやむを得なかったとか、こうなった以上仕方ないという人がいるが真っ先に
 米国の尻馬にのった日本とドイツやフランスのとった態度はあまりに違っていた。多くの国が踊らされたので彼の国が立派だったと言うしかないのかも
 しれないが、「属国」状態の弊害ということも出来るのではないか。

                                                                                おわり 
  

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